インサイト

日本が目指すべき脱炭素型スマートシティの姿 〜気候帯別の理想像とは?〜

スマートシティとは、テクノロジーを活用して、都市の持続可能性、効率性、生活の質を向上させるために設計された都市のことで、脱炭素社会の実現に向けて注目されています。
ところで、日本は南北に縦長い島国であるため、亜熱帯地域、温帯地域、冷帯地域の3つの気候帯が存在しており、各気候帯に合わせた脱炭素型スマートシティに転換していく必要があります。
そこで今回は、世界の先進的なスマートシティモデルを気候帯別に紹介しつつ、日本がどのようなスマートシティを目指し、脱炭素を実現していけばよいのか考察したいと思います。

3つの気候帯で考える必要性とは

日本のスマートシティのあるべき姿を考える際に、なぜ3つの気候帯に分けて考える必要があるのでしょうか?
多くの人が知っているように、気候帯によって、温度や降水量が異なることはもちろん、人々の生活スタイルも異なります。従って、それぞれに適した効率の良いインフラの整備が求められるでしょう。
スマートシティのあるべき姿は、その土地の気候を十分に考慮したものである必要があるのです。

温暖地域型の目指すべき都市像

温帯地域は、年間通して温暖な気候が特徴で、寒さを苦手とするEVの普及にとっては好条件となります。
一方で温暖で住みやすい気候であるゆえ、人口密度が高くなりがちです。
このような条件に上手く対処している、世界の先進スマートシティ事例を見てみましょう。

サンノゼ (in アメリカ)

サンノゼはシリコンバレーの中心地でもあり、テクノロジーを活用したスマートシティの実現に向けた取り組みが進んでいます。
 特にEVの導入が進んでおり、全米で最も人口あたりのEV充電スポットの数が多い都市です。使われる電力が二酸化炭素を排出しないクリーンでなければ意味がないと思われるかもしれませんが、実はサンノゼでは、太陽光発電の導入が進んでいます。詳しく見ていきましょう。
 サンノゼが位置するカリフォルニア州では、2022年より多くの新築建造物に太陽光パネルの設置を義務づける建築基準が制定されました。

引用:Medium “Solar Power in Sunny Cities: San Jose, California”

この背景には、太陽光の供給量が多いというカリフォルニア特有の気候条件があります。
温帯の中でも特に日照時間が長い傾向のある地中海性気候に属しているため、大容量の太陽光発電に適しているのです。このような恩恵を受け、サンノゼでは、家庭向けに再生可能エネルギー比率が100%の電力プランを提供するなど、より安価なクリーンエネルギーの供給が可能になりつつあります。
また、太陽光発電による電力を各家庭で蓄えるだけでなく、充電したEVから逆に家庭に電力を提供して地域の電力不足を補うなど、地域全体としてより効率良くエネルギーを使える社会の実現を目指しているようです。

バルセロナ (in スペイン)

バルセロナは、世界最大級のスマートシティイベントが開催されるなど、注目されている都市です。
実はバルセロナは、東京よりも人口密度が高く、何も工夫しなければ交通渋滞や排気ガスの問題が生じてしまいます。そこで取り組んでいるのが、「スーパーブロック」と呼ばれる区域を設定し、自動車利用を制限することです。スーパーブロック内では、通常の自動車の進入を制限し、歩行者や自転車の優先を確保します。これによって、排気量が低減され、公共交通機関や自転車や徒歩など、環境に優しい移動手段が奨励されます。
また下の写真のように、従来の交差点において自動車の交差を禁止し、スペースの空いた交差点に緑豊かな広場を設けるなど、環境にも人にも優しい街づくりが計画されています。

引用:WORKSIGHT “バルセロナ市民にストリートを取り戻す”

これらの区域では、人々の活動によって消費されているエネルギー量がセンサーによってリアルタイムに把握されており、さらなる改善に役立てられているようです。

亜熱帯地域型の目指すべき都市像バルセロナにおけるスーパーブロック・プロジェクトと「21世紀の街路」

沖縄県の一部は亜熱帯気候に属し、温暖地域とは異なるスマートシティモデルが必要かもしれません。
世界の事例を見てみましょう。

シンガポール

シンガポールはアジアトップのスマートシティとして世界的に有名です。そんなシンガポールがどのようなテクノロジーを導入しているのか、気候特性の観点から見てみましょう。
シンガポールは、熱帯気候に属しているため、年中高温多湿です。また近年の異常気象の影響により集中豪雨による被害も増加しています。そこで最新の豪雨対策として、複数の気象レーダーを活用し、これまで捉えることのできなかった低層の雨雲を早期に発見し、局所的な豪雨の予測を試みています。また、自動運転の公共交通機関も発達していますが、豪雨の際に視界が悪くなっても周囲の車両や歩行者を検知できるよう、高性能のレーダーを備えた自動運転バスの開発も進んでいるようです。
熱帯特有の高温な気候は、当然ながら膨大な空調エネルギーを必要とします。脱炭素を達成するためには、これらの電力を大幅に削減する必要があります。そこで注目されているのが、効率良く一元管理できる大規模空調システムの導入です。例えば、シンガポール西部の政府主導のスマートシティ”Tengah Town”では、公共住宅や大型複合施設など、地域内の建物をまとめて冷房するシステムを導入しており、従来の電力使用量の約30%を削減できると見込まれています。さらに、最新のエネルギー管理システムによってモバイルアプリで使用量が見える化され、地域全体で脱炭素社会を目指す風潮が醸成されているようです。

Tengah Town 完成イメージ
引用:DAIKIN “シンガポールでスマートシティプロジェクトに参画”

寒冷地域型の目指すべき都市像

北海道や東北の内陸部は亜寒帯気候に属し、その特異な気候に合ったモデルが必要でしょう。
世界の先進事例を見ていきましょう。

ストックホルム (in スウェーデン)

スウェーデンは、温室効果ガスの削減目標や再生可能エネルギーの導入目標などを早くから達成してきた、世界でもトップクラスの脱炭素先進国です。そんなスウェーデンのスマートシティ事例を紹介します。
スウェーデンの首都であるストックホルムは、世界でも最もモビリティの脱炭素が進んだスマートシティだと言われています。特に電気バスを始めとした都市型のモビリティが発展しており、2017年ごろよりScania社が電気バスの実証実験を開始しています。再生可能エネルギーが豊富なスウェーデンでは、電気が化石燃料より安い傾向にあるうえ、二酸化炭素を排出しないなど、電気バスを導入するメリットが大きいようです。

引用:TABI LABO “停留所にいる間に、ワイヤレス充電!スウェーデンの「電気バス」”

しかしながら、EVのバッテリーが寒さを苦手とすることを聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
確かに、極度の低温環境下では、充電に時間がかかり、航続距離が落ちるなどデメリットがあります。
その一方で、EVの方が有利な点もあるようです。例えばメルセデスは、凍結した路面でも安全に運転を制御できる次世代の技術開発に取り組んでいますが、電気駆動のEVは、従来車より細かくトルクを制御でき、凍結した路面でも高いブレーキの精度を発揮できるそうです。このように、EVならでは利点が、寒冷地で特に発揮される可能性があり、今後も普及していくことが期待されます。

理想の脱炭素型スマートシティの実現に向けて

日本各地でも今後、脱炭素の後押しを受けてスマートシティが誕生してくるでしょう。
しかし、今回の記事で考察したように、各気候帯に適したスマートシティのモデルを実現していくことが重要になります。
また、それぞれの気候特性に特化したモデルを目指すだけでなく、3つの気候帯を持つ地理特性を上手に生かして、各地域が連携することで、より良いスマートシティモデルの実現に繋がるでしょう。

関連記事

TOP