企業が行う環境配慮行動には様々なものがありますが、今回はその中でも「オフィス運営」について取り上げます。
企業にとってのオフィス選びは従業員のモチベーションや顧客とのつながりやすさなど様々な尺度によって判断がされますが、環境に配慮する場合にはどのようなことに意識すれば良いのでしょうか。
今回の記事では環境に配慮したオフィス運営とそのメリットを中心に見ていきます。
オフィスでできる環境に配慮した取り組み
再生可能エネルギーを導入する
オフィスでの環境配慮の取り組みに再生可能エネルギーを導入することが挙げられます。
オフィスでの使用電力に再生可能エネルギーを導入することで、社会全体で見た時のCO2の排出量を抑えることができます。
例えば、太陽光発電を導入した場合にはCO2削減に加えて自社で自社分の電力を賄うことができる点や、過剰な電力を売買することができるといったように環境配慮面だけではなく経済的なメリットも得られるという側面があります。
空調の省エネ技術
次に空調の省エネ技術についてです。
オフィスの空調を最小限のエネルギーで稼働させるためには断熱材だけでなく、遮熱塗料を活用することが有効です。遮熱塗料とは、熱の原因となる太陽光を反射させて屋根温度の上昇を防ぎ、室内の温度上昇を抑える塗料です。これを屋根や外壁に塗装することで、夏場の室温を快適に保つことが可能になります。
また、この遮熱塗料は色によって効果が異なります。
例えば、熱反射率の高いホワイトであればあまり室内に熱を持ち込まず、室内を快適に保つ傾向がある一方で、ブラックなどでは熱反射率が低くなります。
遮熱塗料の活用は断熱材とは違い、保温効果はないため、冬の活躍はなかなか見込めませんが、夏の暑さを凌ぐには空調の効果を高めるため大きな効果を発揮し、脱炭素に貢献するでしょう。
木材を使って炭素を固定に貢献
次に木材の使用についてです。
オフィスの建築に木材を用いることで木材が炭素を吸収し、地球環境に寄与します。
林野庁は2021年より、建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドラインを策定しており、炭素貯蔵量をわかりやすく表示する方法が示されるなど、建築物に木材を取り入れる動きは近年進んできていると言えます。
日本は世界有数の木造建築の技術を持った国であり、森林国であります。外材の利用もまだまだ多いものの、国内の森林資源、間伐材など木材を有効活用し、オフィスや住宅に木材を取り入れることが環境配慮行動になるのです。
その他省エネ施策
ここでは、そのほかの省エネ対策とエネルギー消費構造などについて記載します。
具体的な取り組みとしてはペーパーレスなど省資源化や節水設備、LEDの使用による使用電力の削減が挙げられます。
詳細な取り組み方について、ペーパーレスに対しては白黒印刷を心がけることや会議における紙資料を廃止すること、節電では効率の良い電球の使用や空調の定期的な掃除といった大小様々な施策が考えられます。
今回は資源エネルギー庁のオフィスにおける節電アクションの事例を下記に紹介します。
大きく照明・空調・OA機器(オフィスの自動化に用いられる機器)に対する施策が明示されています。夏場は特に空調による消費電力が大きくなるため、そこへの施策が有効になるでしょう。
OA機器の環境配慮
上記のようなOA機器に関するアクションは節電効果が小さく見積もられていますが、生成AIの発達などを背景にOA機器と環境配慮行動の関わりも深くなっています。
ここでは、DX化・生成AI時代のOA機器、サーバーの脱炭素対策などを見ていきましょう。
PCのカーボンニュートラル
まずはPCのカーボンニュートラルについてです。
今回はPCを通じてCO2オフセット・サービスを展開しているlenovoの例を取り上げます。
カーボンオフセットとは、日常生活や経済活動においる避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方です。
lenovoでは、顧客がPC購入の際にCO2オフセット・サービスに登録することでカーボンクレジットの購入ができ、その分の証明書をLenovoが発行することで顧客のサステナビリティ行動を可能にしています。
これによりPC購入時にオフセット分の値段は上乗せされるものの、他のオフセット手段と比較して低コストでクレジットの購入、証明書の発行が行えるため、企業のサステナビリティ活動としてはとても有効な施策になります。このようにオフィスにおける設備にも目を向けることで様々な環境配慮行動が可能になります。
グリーンなサーバー・クラウドの選択
次に、サーバーの脱炭素対策についてです。
サーバーを選ぶ際には省エネ率の高い、また再エネが導入されたデータセンターを選択することが間接的な環境対策につながります。
データセンターは大量の電力を消費するため、温室効果ガスの削減が課題になっています。日経新聞によるとデータセンターは世界の消費電力の約1%、温室効果ガスの1%近くを占めています。
日本政府が公表したグリーン成長戦略においてはデータセンターについて次のような目標が掲げられています。
①2030年時点ですべての新設データセンターを30%省エネ化、データセンターの使用電力の一部を再エネ化
②2040年までにデータセンターのカーボンニュートラルを目指す
グリーンデータセンターの取り組みの良い例がグーグルとアマゾンになります。(注1)
例えば、グーグルは複数のエネルギー会社と提携し必要電力の全てを再生可能エネルギーで賄う目標に向けて蓄電池システムの開発に取り組んでいます。
またアマゾンも蓄電池会社に投資・提携をすることで必要電力を再エネで賄う方針を取っています。
このように2040年に向けた取り組みが行われていますが、こうしたカーボンニュートラル社会は消費者側の企業も共に取り組まなければ達成に近づきません。サーバーの選択の際にも環境に配慮することが重要です。
注1:参照元「日本経済新聞 GoogleとAmazon、データセンター脱炭素化への道」
生成AIの利用の課題
昨年より生成AIの活用は広く認知され、その利活用も進んできました。
しかし、この生成AIブームとは裏腹に、そのサーバーの使用による電力利用は大きく増大し環境に負荷を与えています。
日本では2050年に向けて消費電力が約4割増加するとされています。(注2)
これは、現在推し進めている脱炭素の行動を帳消しにするほどのものであり、2050年に向けて進めるネットゼロ社つまりは温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスが正味ゼロの社会に向けては大きな足かせになります。
生成AIは非常に便利なツールですがこうした裏の側面にも考慮が必要です。
この技術の発展と再生可能エネルギーなどの脱炭素行動の両立について世界は帰路に立たされています。
注2:参照元「日本経済新聞 電力消費、2050年に4割増 生成AI普及で想定超す爆食」
ZEB
ZEBとは
次にオフィスをもう少し大きく捉え、環境に優しい建物(ビル)について取り上げます。
代表的なものとしてZEBが挙げられます。環境省の資料を参照すると、ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称であり、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギー収支をゼロにすることを目指した建物と定義されています。
建物の中では人が活動しているため、エネルギー消費量を完全にゼロにすることはできませんが、省エネによって使うエネルギーをへらし、創エネによって使う分のエネルギーをつくることで、エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることができます。
このような環境に配慮されたビルに入居することも企業の環境配慮の行動であると捉えることができます。
ZEBには大きく4種類の段階に定義されており、省エネによるエネルギーの削減量や外皮の性能によって段階が違います。
ZEBの効果
それでは実際にZEBにはどのような効果があるのでしょうか。
環境省の資料によると光熱費の削減という観点ではZEBreadyというZEB4段階の上から3番目の段階のビルの場合、標準的なビルと比較して光熱費を大幅に削減することができ、 延床面積10,000㎡程度の事務所ビルを想定すると、40~50%の光熱費の削減になるとされています。
このようにZEBは環境面、またコスト削減の観点で大きな効果を見込むことができます。
このような仕組みは企業のビルだけではなく、公共施設にも取り入れられる可能性があり今後注目の環境配慮施設になります。
企業が環境に優しいオフィス運営をするメリット
メリット1
最後に企業が環境に配慮したオフィス運営を行うメリットについて述べていきます。
まず、企業の炭素排出量の削減による社会貢献が挙げられます。
環境問題というのは消費者だけの問題ではなく、企業自身の問題でもあります。気候変動や異常気象をはじめとした近年の環境課題によるリスクには企業も直接的に対策をとっていかなくてはなりません。
そうした意味で、環境に配慮したオフィス運営を行うことは直接的に環境リスクを軽減する社会貢献となり得ます。
メリット2
また、こうしたオフィス運営は投資家へのアピールとしても有効です。
ここ数十年でESG投資という言葉を聞く機会が多くなったように、近年では投資家が企業の環境配慮行動までを加味し、長期的な目線に立って投資を行うようになりました。
そうした中、環境に配慮したオフィス運営は企業の脱炭素行動として大きな役割を果たし、投資家にポジティブな印象を与えることができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は環境に配慮したオフィス運営について、またそのメリットについて説明させていただきました。
今回の記事が少しでも皆様のお役に立ちましたら幸いです。