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気候変動対策としての都市計画と企業の役割

気候変動が激しさを増す中、都市計画のあり方も変化していかなくてはなりません。
人々の生活に大きく関わる都市のあり方はこれからどのように変化していくのでしょうか。
今回は気候変動対策として行われている都市計画・政策を見ていきましょう。

都市政策と持続可能性

気候変動緩和策と気候変動適応策

まずは都市政策について見ていく前に、今回の記事で前提知識となる気候変動対策について、詳しく見ていきましょう。
気候変動対策には、気候変動緩和策と気候変動適応策の二種類があります。
気候変動緩和策は、地球温暖化を抑えるために温室効果ガスの排出を減らす取り組みで、気候変動適応策は、既に起きている気候変動に対応するための対策です。気候変動対策と言えば、気候変動緩和策について語られることが一般的ですが、様々な施策が現状取られているにも関わらず、気候変動は尚加速するように、緩和策によって気候変動を完全に回避することは、現実的ではないとされています。そのため、今後気候変動対策では気候変動緩和に加えて、気候変動に適応するための施策が重要度を増してきています。
また、気候変動適応策はなかなか注目されていなかったことから、これまで研究の遅れていた分野であるとされています。それゆえ、今後の市場拡大がますます期待できる分野になります。
都市政策を考える際にも緩和策であるか、適応策であるかを考えながら理解を進めることで、政策へのより深い理解ができるでしょう。

引用:A-PLAT「気候変動と適応」

都市政策について

次に都市政策についてです。
都市政策とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。それは、都市に対して公共的に介入することをいいます。
その範囲は、交通政策、農業政策、金融政策、そして環境政策など広範に及び、都市政策は政策分野に該当します。それでは気候変動対策において、都市政策はどのような役割を果たすのでしょうか。
気候変動に対する都市政策の例としては、気候変動を緩和させるために建築物、移動手段を省エネにするといったことや、気候変動により地震が頻発化すれば、それに適応して耐震の機能を持った住宅を増やしていくといったことが考えられます。
この例からもわかるようにその国、地域で行う都市政策は、一個人では比にならない強力な力を持っており、もちろん環境に与える影響も大きくなります。また、これらの都市政策はそこに暮らす人々の生活に直結し、密接に関わっています。
このように都市政策は気候変動に対して大きな影響を与えていると考えられます。

気候変動対策事例

ここからは都市政策の事例を通じて、その都市政策が気候変動対策にどのように寄与しているのかについて具体的に見ていきましょう。

コペンハーゲンの事例

まず、世界の都市が取り組んでいる気候変動対策について紹介します。
今回はデンマークのコペンハーゲンの事例とイギリスのロンドンの2つの事例を紹介したいと思います。
まず、コペンハーゲンについてですが、そもそもデンマークは、2023年にカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げ、達成は叶わなかったものの、目標に対して8割の達成と、世界でみれば脱炭素の最前線を走っています。そして、コペンハーゲンでは都市の自転車シティ化に取り組んでおり、デンマークの中でも気候変動対策が進んでいる都市になります。交通分野における気候変動緩和策として、移動手段として自転車への移行を進めてきました。
例えば、交通インフラとして自転車ハイウェイというものを町全体に整備しました。これは自転車専用ルートで、サイクリストがより走りやすくなることを目的にしたものであり、この他にもサイクリストを考慮した街の設計を行うことで、交通の脱炭素を進めてきました。
また、気候変動適応策では「気候パーク」という貯水スペース建設が行われました。これはコペンハーゲンの大雨を背景に、水害対策として造られたものです。公園に貯水システムを作り、近隣にふった雨がそこに流れ、集まった水が噴水として利用されたり、園内の植物の水やりに利用されたりするという仕組みになっています。このように町全体として、気候変動への施策を進めているのです。

引用:東京都議会 都議会民主党 東京都都議会海外視察調査団報告 「第6章 コペンハーゲンの交通政策概要 自転車を中心とした取り組み 」

ロンドンの事例

ロンドンでは2023年に海面上昇のペースが加速していることから、街の洪水対策を15年前倒しに行うことを発表しました。
これは、現在高潮を防いでいる全長520mの可動式膨張壁を増設する計画であり、当初65年かかるとされていたものが気候変動対策プログラムを加速させたことにより、50年に短縮されました。
また、ロンドン西部では大気汚染を防ぐための実験として、市民の徒歩や自転車での移動を促進する試みが行われています。これは「Beat the Street」と題されており、市民にカードが配布され、域内にある機械にそのカードをスワイプすればポイントを貯めることができるというものです。ここにはゲーミフィケーションと呼ばれる手法が用いられており、ゲーム要素を取り入れることにより、参加者は楽しんで大気汚染の防止に取り組むことができるという利点があり、この施策は大気汚染の防止に加え、交通渋滞や運動不足解消などの効果もみられ、有効な施策と考えられています。

引用:国土技術政策総合研究所 「英国の気候変動適応策に係る経緯 」

日本の事例

次に日本の事例についてみていきます。
会津若松市では、令和3年に「ゼロカーボンシティ会津若松宣言」の発表を行い、2050年までのできるだけ早い段階で、温室効果ガスの排出量を実質0にすることを、全市一丸となって取り組んでいます。行われている施策には様々なものがありますが、家庭の電力使用量を可視化することによって、節電を促す取り組みが注目されています。
これは各家庭に電力消費測定装置を導入し、その測定結果を多様なICT端末によって公開するというものです。これにより、消費者の節電行動が促され、最大で27%の削減効果がみられたようです。
また、2011年から同市はアクセンチュア(株)主導でのスマートシティプロジェクトが行われています。これにはモニタリングのための都市情報プラットフォームの構築や、医療やエネルギーなど複数分野のデータ管理が含まれています。これを用いて交通の最適化やカーボンニュートラルに関する情報発信を行うことで、市民の脱炭素行動が促進されることも期待されています。

また、環境についての都市政策として、「環境未来都市」構想というものがあります。
これは様々な環境問題・都市問題に対して、環境負荷をいかに増やさず、豊かさを実現させるかということが重要になっているなかで、それを実現するために積極的に取り組みを推進する都市を選定することで、課題解決の普及を図る取り組みです。
実際、横浜市や京都市が選定されており、京都では景観を維持した状態での太陽光発電の導入を積極的に行ったり、家庭への省エネ・創エネへの助成を行ったりなどしています。

引用:「環境未来都市」構想推進協議会 「京都市 」

企業の都市政策に果たす役割

都市政策において企業の役割

これらの都市政策において、企業はどのような役割を果たしているのでしょうか。
一言でいうことはできませんが、多くの場合、都市政策において企業は、政策の実行役を担っています。
また、より重要度の高い政策であれば自治体が様々な原案を考え、それをコンサルティングや銀行などと議論し、実行のために事業会社に依頼していくといったような流れが取られることもあります。実際に会津若松市の例では、外資系企業であるアクセンチュア(株)がプロジェクトを主導し、スマートシティ構築に向け取り組みを行ったように、企業が主導となって政策が行われることもあるでしょう。いずれにせよ、気候変動対策のための都市計画において民間は大きな役割を果たしています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は気候変動対策としての都市計画と企業の役割について説明させていただきました。
今回の記事が少しでも皆様のお役に立ちましたら幸いです。

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