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持続可能な農業と食品産業の事例

持続可能な農業の実現は日に日にその重要性を増しています。
SDGsの達成目標においても、農業分野が果たすべき目標はいくつも存在します。また、こうした持続可能な農業をめぐる取り組みは、その生産物を流通・販売していく食品産業においても重要な取り組みです。
今回の記事では持続可能な農業の実現のための取り組み、また食品産業においてどのような取り組みが行われているかについて紹介します。

持続可能な農業について

持続可能な農業とその重要性

まず、「持続可能な農業とは」について説明します。
持続可能な農業とは、国際的非営利組織のレインフォレストアライアンスによると、「今日のニーズを満たしながら、明日のニーズを犠牲にしないこと」、「環境とって健全で、社会的な責任を果たし、かつ農業生産者に利益をもたらす農業」とあります。(参照元:RAINFOREST ALLIANCE「持続可能な農業とは何か?」
農業をめぐっては、世界的に見れば水不足問題や農薬や化学肥料の過剰使用問題、また担い手における不平等問題など様々な問題が存在します。また、日本においても少子高齢化による担い手不足の問題や耕作放棄地の増加、食料安全保障の問題など様々な問題が存在しています。
こうした問題を解決しつつ、安定的に食料を生み出していくこと。これが持続可能な農業です。
それではどうして、近年持続可能な農業への注目が集まっているのでしょうか。それは、食料確保の重要性が上がっていること、また気候変動や環境破壊が深刻化していることの2つが挙げられます。
昨今は世界人口の増加が著しく、このままでは食糧不足による飢餓で多くの人々が苦しむ可能性があります。そのなかで、食料確保に立ち塞がる課題には、早急に対処しなくてはなりません。このようにして持続可能な農業の重要性は、年々高まりを見せています。また、気候変動や環境破壊は深刻化を続けており、環境負荷を減らすための農業のあり方や、逆に環境変化に対応した農業のあり方を考えていかなくてはならない状況にあります。こうした背景から、農産業全体が持続可能な農業の実現に向けた取り組みに着手しています。
以下では改めて農業をめぐる課題を整理して、その解決に向けた策を説明していきます。

農業の課題

持続可能な農業に向けての課題は様々ですが、今回は世界的にも問題になっている「気候変動による農業への影響」と、日本において特に深刻な「農家の減少」、またそれによる「耕作放棄地の増加」について取り上げます。
まず、気候変動による農業への影響についてです。地球温暖化により、気温や降水パターンは変化し、農作物の栽培に大きな影響が出ている地域もあります。
ヨーロッパでは実際に小麦の収穫量が気温上昇により低下するなど、気候変動による影響が農業に及ぶことがわかります。また、農業においては農地開拓のためにこれまで森林伐採や焼畑が行われていた地域もあり、そういった行動が森林減少・土壌劣化引いては気候変動を引き起こしています。

引用:Sustainable Japan「【食糧】世界の小麦需給の動向 〜気候変動と小麦のサステナビリティ〜」

続いて、日本の課題を紹介します。
まず、農家の高齢化についてです。基幹的農業従事者の数についてですが、2015年が175.7万人であるのに対し、2022年は122.6万人と50万人以上大きく減少しています。これは高齢化によって農業が続けられなくなった人々の離農が多いことに大きな要因がありますが、それに加えて、新規就農者は思うように増えていないことも大きな要因として考えられます。農業は初期投資が高額であることに加え、災害などの影響で収入が不安定です。
このようなことから、新規参入者は少なくなってしまっています。農業における労働力の確保は、急務になっているのです。
また、この人手の減少により、「耕作放棄地の増加」も問題となっています。元々農地として利用されていたものの、現在は農地として利用されていない土地のことを「耕作放棄地」といいます。耕作放棄地が増えることにより、その土地に害虫・雑草が発生したり、野生動物の行動圏となってしまったりして、農地としての再利用が難しくなります。このような課題を解決していかなくてはなりません。

引用:内閣府「農地・耕作放棄地面積の推移」

持続可能な農業実現に向けた動き

スマート農業

解決策としてデジタル技術を利用して効率的な生産を行いつつ、消費者から評価される価値を生み出していくスマート農業の導入が行われています。
これはヨーロッパでは1980年代から注目され、発展を繰り返してきましたが、今日では高度なAIの発達やドローンなどの最新ロボティクスを用いて、さらに応用的な農業に進化しています。例えば、ドローンを用いた病害虫の早期発見・肥料の散布の効率化や自動収穫機・自動田植え機が人間の代わりに作業を行うといったような形で導入されています。
ここでは、実際の具体例をいくつか紹介します。
カナダでは、農作物に影響を及ぼす空気中の病原菌を採取し、その菌の情報から種類や耐性の有無、発生状況などに応じて適切な農薬対応を可能にする装置の開発が行われています。また、人手不足が深刻な日本においても、各地域でドローンなどの省力化システムが導入されています。

引用:農林水産省「スマート農業」

品種改良

またスマート農業の他にも、変わりゆく気候に合わせてより多くの収穫が可能になるような、そして気候変動に耐えうるような品種改良も行われています。
最新のお米では、「ちほみのり」という品種のお米が品種改良によって作られています。これは出穂が早くまた収穫量が多いことに加え、病気に対して強い品種になっています。農林水産省からのコメントにおいても、農業者の作業負担軽減やコスト低減につながる直播栽培(農地に直接種をまいて育てる栽培方法)の普及を図っていく上で、耐倒伏性や多収等の特性に優れた品種の導入が重要であるとコメントされています。

食品産業の現状と政府の動き

企業の取り組み

持続可能な食品産業に向けて、食品業界も努力を重ねています。
食品業界大手は品種改良や素材の研究、持続可能な原料調達において、大きな役割を果たしています。
品種改良・素材の研究においては、より気候変動に耐えうる食料品の開発や、提供する際の廃棄物が少なくなるような素材の利用などを行っています。

引用:株式会社三菱総合研究所「食品業界におけるサプライチェーン・イノベーションへの取り組み」

また、原料調達の分野においては、持続可能な食料システムの構築のために持続可能なサプライチェーンの構築に力を注いでいます。現在の日本の食品産業では、生産から消費までに至るバリューチェーンが細切れになっており、効率的なバリューチェーンが実現されていない現状にあります。
近年では、気候変動による自然災害の増加や政治不安による食料安全保障の問題など様々な不安がある中、持続可能なサプライチェーンを構築していくことが重要になっています。また、サプライチェーンにおける輸送の際のエネルギーを再生可能エネルギーに代替することや、家畜の餌を調整しガスの排出を抑える活動などを行っています。

持続可能な農業の取り組みの促進

持続可能な農業の取り組みは、その重要性から政府からの後押しも受けています。
農林水産省では環境負荷軽減の取り組みを促進するため補助金の制度を充実させています。目標としては2050年までに農薬の使用料を50%、化学肥料の使用量が30%減少する目標を掲げており、そのための取り組みを行っています。具体的な補助金制度については必要以上に農薬を使っていないか、また二酸化炭素の排出につながる化石燃料の使用を減らしているかなどを、所定のチェックシートに記入し、国に提出するよう求めています。
政府からのバックアップにより、より多くの農家が持続可能な農業に向けた取り組みに参画し、産業全体が安定的に営みを続けられることを目指しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は主に持続可能な農業の実現について取り上げました。今回の記事が少しでも皆様のお役に立ちましたら幸いです。

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