ここ数十年で耳にする機会は増え、もはや当たり前にさえなりつつある「ESG」という用語ですが、その詳細を理解している人は多くないかもしれません。
今回の記事ではESGについての理解を深めていき、昨今の脱ESGの流れなどにも理解を深めるきっかけにしていきましょう。
ESGとは
SDGsとは
ESGについて理解するために、まずその前提としてSDGsについて理解しましょう。
SDGsとは、持続可能な開発目標の略称であり、2030年までに達成するべき目標として設定されているものです。
環境価値、経済価値、そして社会価値を両立し将来世代の要求も満たしつつ、現代の世代の欲求も満足させられるような開発を行うことを求めるものです。主に17のゴールが設定されており、そこから169のターゲット、232の指標と細分化されていきます。
ESGとは
ESGとはE(environment)、S(social)、G(governance)の略であり、企業が長期的に成長するためにこの3つの観点を考慮して経営を行うことが必要であるという考えを指します。
この3点に考慮して経営・事業を行うことをESG経営といい、この3点に考慮して投資活動を行うことをESG投資といいます。以上を踏まえてSDGsとESGの関係を説明すると、企業や投資家がESGを通じた経営・投資を行うこととによって大きなSDGsという目標に貢献しているという関係であると説明できます。
ESGの歴史
ESGの歴史
ESGの歴史について概観し、ESGをめぐるメガトレンドを抑えましょう。
ESGが誕生するまでには前身として主に、SRI、CSRというものが存在していました。SRIとは社会的責任投資と言われるもので社会的・倫理的側面から社会的責任を考慮して投資対象を選ぶことをいいます。これは1920年代の米国キリスト教会が教会の資金を運用するにあたってアルコールなどキリスト教にふさわしくないとされる産業に投資することを禁止したことが始まりだとされています。
次にCSRについてです。CSRとは企業が行う事業活動とは別に社会貢献活動を行うことを指し、企業が環境や社会のために何らかの社会貢献活動を行うことがすすめられていました。
しかし、CSRはあくまで企業の善意的な行為を仰ぐだけにとどまっていました。こうした背景のもと、2006年に第7代国連事務総長のコフィー・アナン氏が投資家に対して投資の意思決定にESG要素を取り込むことを求め、PRI(責任投資原則)を発表したことでESG投資が確立され、広く周知されることになりました。
SDGsの歴史
少し話はそれますが、SDGsの歴史についても補足的に見ておきましょう。
SDGsの前身としては、MDGsというものがありました。これは2015年までに達成するべき途上国の課題として設定されており、8つの目標と21のターゲットが設定されていました。
しかし、MDGsは政府主体であり一部の層に取り組みが偏ってしまったことから、未達成という結果で終わりました。このMDGsの期限切れと同時に、新たに設定されたのがSDGsなのです。
ESG投資の手法
ESG投資はどのように行われるのか
主に機関投資家によって行われるESG投資ですが、実際はどのような手順を踏んで企業選定が行われているのでしょうか。
代表的な2つの投資手法として「ポジティブスクリーニング」と「ネガティブスクリーニング」があります。
ポジティブスクリーニングとはESGにおいて評価の高い企業は今後も成長するという仮説のもと、投資を行うといったようなもので、いわば良い企業に投資をしようといったものです。
反対にネガティブスクリーニングはESGの観点から適切でないと考えられる企業を投資の対象から除外する手法のことをいいます。その他にもテーマ投資やインパクト投資など様々な投資手法がありますが、今回はESGに関連して主に2つの手法を取り上げました。
企業のESG行動をどのように確認するのか
こうした企業のESG行動を、私たちはどのように確認することができるのでしょうか。また、どのように評価することができるのでしょうか。
これは、機関投資家が自社の投資先が適切にESGに貢献しているかどうかを確認する際や、我々一個人が、企業がESGに無配慮な経営をしていないかを確認するために重要な観点になります。
個別企業で確認する場合、企業のサステナビリティ報告書を参照するという方法があります。2023年からサステナビリティに関する開示が義務化されました。
また、今後は国際基準でのサステナビリティ開示が義務化される方向性となっています。こうした企業が開示する情報をもとに、確認するのが一つの方法でしょう。
それでは、それらを評価するためにはどのような方法があるのでしょうか。
方法として今回は、評価機関であるMSCIが公表するESGスコアを紹介させていただきます。
これは、企業の環境、社会、ガバナンスに関するリスクマネジメントの程度を分析し7段階で評価したスコアです。これを参考にして、個別企業のESGの貢献度合いを測ることができます。このスコアは詳細に公表されており、特定の分野(例えば女性活躍指数など)に関するスコアを参照することもできます。
ESG経営の意義
企業がESGに取り組む意義
企業がESG経営に取り組む意義・メリットは主に2点が考えられます。
1点目がリスクの回避です。現代社会において、気候変動問題やそれによる生態系の問題などはあとを絶ちません。こうした中で、政府や研究機関が取り組みを行うだけではなく、民間の力が大きな役割を果たすことがいうまでもありません。環境・社会に配慮をすることで、将来被る可能性のあるリスクそのものを低減させることができることは、大きな意義になります。
2点目は、新たなビジネス機会の創出につながることです。ESGに関連して、「食料・農業」や「エネルギー」、「健康・福祉」といった領域は転換期を迎えており、ESG経営に取り組むことで新たなビジネス機会を得られると考えられます。例えば、フードエコロジーセンターでは、食料と農業という分野において廃棄食料を減らすための取り組みの延長として、廃棄食料をリサイクルする事業が生まれました。
ESGと企業価値について
企業のESGの取り組みの意義について、経済的な側面から考えてみます。
ESGと企業価値の研究については、有名なものに「エーザイ」の実証研究があります。
この研究では、ESG経営を取り入れることにより、5~10年で企業価値を向上させることが示されています。サステナビリティの取り組みには、従業員ひとりひとりが自分らしく働ける環境の整備も含まれており、多様性を尊重し、さまざまなライフステージにいる従業員すべてにとって働きやすい環境を整えることが重要です。そうすることで従業員の満足度は高まり、エンゲージメント(会社への愛着心)が向上すると考えられています。
実際の取り組み
さらにこの企業価値とESGについて詳しく見ていきます。
こうしたESGと企業価値についての研究はエーザイの事例にとどまらず、その後も研究が進んでいます。
例えば、2021年に行われたエーザイ元CFOの柳氏とアビームコンサルティングの杉森州平氏の共著論文においては、TOPIXにおける約50社を対象にしたESGと企業価値の関連性を計る実証分析が行われました。そこではエーザイの研究結果と同様に、ESG行動は企業価値に正の影響をもたらしていると示されています。
このほかにも、個別企業である日清食品ホールディングスは、2022年2月2日公開の価値創造レポートで、「定量面の検証では、非財務資本と企業価値(PBR)の関係性を明らかにする分析モデル(柳モデル)を利用し、創業者精神に基づくESGの取り組みと企業価値の間に正の相関関係があることが明らかになりました。今回分析に用いた約270項目に及ぶ非財務データのうち多数の項目が企業価値と関係することが判明しています。
例えば、研究開発費1%増加時に7年後のPBRが+1.4%、CO2排出量1%減少時に8年後のPBRが+1.0%などの関係性が出ています」と記述しているなど今注目を集める研究です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回はESG投資について、またその歴史や企業価値との関係について説明させていただきました。
今回の記事が少しでも皆様のお役に立ちましたら幸いです。