SDGsの目標達成年まで残り約5年となり、持続可能な社会の構築に向け、様々な取り組みが進められています。
今回はその中でも「環境教育」について取り上げます。
これまでに増して気候変動や生物多様性など環境問題が広範な分野に及んでいる中で、環境教育が環境の保全のために果たす役割はますます大きくなっています。環境教育の果たす役割について理解していきましょう。
環境教育の動向
再生可能エネルギーを導入する
環境教育とは環境省の定義によると、「人間と環境とのかかわりについて理解と認識を深め、責任ある行動が取れるよう国民の学習を推進すること」とあります。このように、自身の行動と自身を取り巻く環境との関わりを十分に理解し、後世に持続可能な社会を引き継いでいくことが重要です。
今回の記事では、このような姿勢を育むため、実際にどのような取り組みが行われているかをみていきましょう。
環境教育はいつから意識されるようになったのでしょうか。一般的には1948年の国際自然保護連合の設立によるものが大きいと言われています。この機関は現在ラムサール条約の事務局をつとめ、また絶滅危惧種の「レッドリスト」の作成などを行っています。
この機関設立後、化学物質が環境に与える危険性を説いた「沈黙の春」の発表が大きな反響を呼び、環境破壊に注目が集まったことなどを経て、1970年にはアメリカで世界初の環境教育法が制定されました。
このように始まった環境教育ですが、今や佳境を迎えています。SDGsの達成は2030年での達成目標でしたが、これまで以上に重要性を増す環境教育の現状を捉えていきましょう。
環境教育の海外事例
環境教育が進んでいる国として、ドイツが挙げられます。
ドイツは、「環境先進国」として世界から知られています。ドイツ各地には、「森の学校」と呼ばれる地域の自然保護や環境教育を行うエコセンターがあり、学びの場が豊富に用意されています。
また、学校の授業でも環境問題を扱う環境教育を実践しており、学生のうちから日常的に問題意識を共有しています。このようにドイツでは、環境への高い意識が浸透していることから環境への取り組みが進んでいると言えます。
環境教育をめぐる環境省の方針
2024年5月に「環境保全活動、環境保全の意欲の増進および環境教育並びに協働取組の推進に関する基本的な方針」の変更について閣議決定がされました。
このように、国としても政策を進める環境教育ですが、どのようなことが定められ、議論されているのでしょうか。まずは、「環境教育促進法」という法律の概要から掴んでいきましょう。
「環境教育促進法」とその変遷
「環境教育促進法」とは、国連が提唱した「持続可能な開発のための教育の10年」を背景に、国民の環境に対する意識を高め、持続可能な社会作りを行うために制定された法律です。
また、行政・企業・民間団体の連携やより一層の環境教育の充実に向けて、2011年からは「環境教育等促進法」へと改正され、循環型社会の形成などが基本理念として追加で求められています。こういった法の中では具体的に、地方自治体における環境教育の促進に向けた地域協議会の設置を義務づけることや学校教育における環境教育の普及、さらには行政と民間団体の協働のあり方について定められています。
次に環境教育をめぐる法律の最新動向について少し取り上げます。
今回の2024年5月においては、「2050年のカーボンニュートラルの実現」、「GIGAスクール構想」、「教職員の負担の軽減」など、変わりゆく環境教育の現状を加味しながら改正が行われました。主な変更点として挙げられているのは以下の点です。
・環境教育の目的として、気候変動等の危機に対応するため、個人の意識や行動変容と組織や社会経済システムの変革を連動的に支え促すこと。
・環境教育において特に重視すべき方法として、これまで重視してきた体験活動に加えて、多様な主体同士の対話と協働を通じた学びやICTを活用した学びの実践を、学校、地域、企業等の様々な場で推進すること。
・ 学校内外での対話と協働による学びの推進に向けた、学校と地域・団体・企業等をつなぐ中間支援機能の充実による、学校の教職員の負担軽減と教育の質向上の両立を図ること。
・これらを推進する具体的な方策の一つとして、中間支援組織の強化等を掲げ、その足掛かりとしてESD活動支援センターや地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)及び地方環境パートナーシップオフィス(EPO)等の既存の中間支援組織の活用を図ること。
参照元:環境省「環境保全活動、環境保全の意欲の増進及び環境教育並びに協働取組の推進に関する基本的な方針」の変更の閣議決定について
また、上記が環境省による発表であるのに対して、文部科学省についても環境教育を重要課題と位置付け取り組みを行っています。
ここでは文部科学省と環境教育について見ていきます。文部科学省は質の高い環境教育の実現のための研修や実際に環境教育プログラムを提供しています。学校での自然体験活動や環境に配慮した設備の導入など様々な立場から環境施策を行っています。
環境教育の事例
学校での取り組み
ここからは、環境教育の実際の事例について見ていきます。過去の数十年、小中学校では「指導要領」において各科目における環境教育の指導方針について定めています。
例えば、中学校の地理分野では、自然環境が地域の人々の生活や産業に大きく関連していることや地域における環境保全の取り組みの大切さについて学ぶ機会を提供しています。
また、保健体育の分野では、環境保全に十分配慮した廃棄物処理の必要性や、地域の実態に即して公害と健康の関係性を学習トピックとして取り扱うことが定められています。その他、理科や技術・家庭科といった科目でも環境について扱うことが定められており、義務教育の過程で環境に関する教育を受ける体制が築かれています。
学校での課外活動
また、授業時間以外においても環境教育が積極的に行われています。例えば、小中学校で行われる取り組みとして、「地域清掃活動」や「リサイクルプログラム」があります。地域清掃活動では、学校やその周辺地域の清掃を行うことによってゴミ分別への意識を高めたり、環境保全の意識を高める効果がされています。またリサイクルプログラムでは、地域によってリサイクルの量をクラスごとで競うコンテストが開催されており、ゲーム要素を取り入れながらも資源リサイクルの重要性について学べる取り組みが行われています。
自然体験学習
また学校の活動の一環として野外学習で自然体験を行うこともあります。
文部科学省では、野外学習を「生きる力」の形成手段として位置づけており、「かつては、自然との触れ合いや異年齢の交流など,日常的な遊びが、青少年の人間形成に重要な役割を果たしてきたが、今日の社会の進展や生活の変化に伴い、青少年にとってそのような遊びの機会や場が減少してきた。このため、意図的、計画的に、青少年に様々な体験の機会を提供する必要性が生じてきている。」とも述べています。
自然と触れ合いを通して、環境の大切さや日々置かれている環境を理解する重要な機会になっていると言えます。
環境教育のトレンド
上記の学習要領のほかに、最近ではさらに応用的な環境教育が行われています。
今回は、デジタル技術の利用と国際プログラムの2つを取り上げます。
まずはデジタル技術の活用です。昨今、急速に普及している仮想現実(VR)や拡張現実(AR)は環境教育をより理解しやすく、体験しやすいものにしています。
九州電力では、出張授業の一つとして、デジタル技術を用いて地球温暖化の仕組みを学び、森のお世話を行うという学習機会を提供しています。これは、VR装置を用いて森の間伐体験を行い、森の適切な管理方法を学ぶとともに、二酸化炭素や雨粒をCGによって可視化し、動画として見せることで、地球温暖化防止に向け、社会で私たちができることを学ぶ講座になっています。まだまだ浸透しているとは言えませんが、これまでよりもますます多くの人々に環境配慮行動を身近に感じてもらえることでしょう。
また近年、異なる文化や国の間での知識、経験の共有が重要視されていることを受けて、全世界的な環境教育を図る国際プログラムが展開されています。国際的なプログラムは、異なる国々の環境問題へのアプローチを理解し、グローバルな視点からどう環境行動を行うかについて考えを深めることができます。
環境教育の重要性
SDGsの遅れ
2023年に国連の持続可能な開発ソリューションネットワークが発表した「持続可能な開発報告書2023」では、SDGsの現状とその進捗について述べられました。この報告書によれば、世界全体でSDGsへの取り組みは後退しており、SDGsの目標年である2030年に全ての項目を達成することは極めて困難であるとされています。
その中でも日本は、SDGsの進捗が166ヵ国中21位であることから、高い水準とは言えないことがわかります。個別の課題を見ると「ジェンダー平等」(目標5)、「つくる責任、つかう責任」(同12)、「気候変動対策」(同13)、「海の環境保全」(同14)、「陸の環境保全」(同15)については「深刻な課題がある」と評価されており、強い課題感がみられます。こうした状況を少しでも好転させ、2030年の目標達成に勢いづけなくてはなりません。
参照元:United Nations「The Sustainable Development Goals Report」
こうしたSDGsの達成への第一歩となるのが環境教育です。
幼少期からの教育は、その人自身の価値観に大きく影響します。SDGsの遅れもある中で、環境教育の推進を図ることが、これまで以上に大切になってくるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は環境省や文部科学省の視点から環境教育について扱いました。
環境教育の重要性について改めて理解し、地球環境を守っていけるよう、社会で手を取り合っていきましょう。
今回のブログが少しでも皆様の行動の一助になりましたら幸いです。