世界中のあらゆる産業において、カーボンニュートラルが求められており、日本でも2050年までにカーボンニュートラルを達成することが目標とされています。
建設業もその例外ではなく、カーボンニュートラルに向けた取り組みは欠かせません。
ただ、建設業におけるカーボンニュートラルの現状について、十分理解できていない方もいるかもしれません。
また、取り組み事例があると、よりカーボンニュートラル推進のイメージが湧くのではないでしょうか。
本記事では、日本の建設業におけるカーボンニュートラルの実現に向けた実態と課題を解説した上で、日本の建設業界を代表する3社が、カーボンニュートラルに向けて取り組んでいる事例を解説します。
建設業でカーボンニュートラルを実現するにはCO2排出量削減が課題
環境省の報告によると、2020年度において建設業由来のCO2排出量は710万トンで、全産業の2%に相当しています。
全産業に占める割合が少ないと思うかもしれませんが、建設業に必要な資材の製造や運搬においても、多量のCO2が排出されます。
例えば、2020年度では、鉄鋼業では1億3,100万トン、化学工業では5,450万トン、かつ持つ自動車では7,250万トンものCO2が排出されているのです。
これら全てが建設業に関わっているわけではありませんが、資材の製造や運搬も考慮すると、建設業のCO2排出量は710万トンでは収まらないと考えられます。
そのため建設業においても、決してCO2削減について考えなくてよいということにはなりません。
建設業のCO2排出量削減については、行政も力を入れています。
例えば、国土交通省中部地方整備局では、2021年度より「カーボンニュートラル対応試行工事」を実施することとしました。
これは、入札参加企業の審査において、CO2削減目標に関する第三者機関の認証や、低炭素型の建設機械を用いた施工実績を、加点ポイントとするものです。
また、脱炭素方策を技術提案として求めます。
これらにより、CO2削減の取り組みを積極的に行わないと、受注に不利に働く恐れがあるのです。
建設業においてカーボンニュートラルに取り組む意義は大きい
日本政府は、2050年までに、温室効果ガスの排出量をゼロとする目標を掲げています。
それに伴い、建設業に限らず、あらゆる産業界でカーボンニュートラルが求められています。
その意義は、以下の通りです。
企業競争力強化 | CO2排出量削減技術の開発で、重機などのコストを削減する。また、CO2排出量削減技術を海外に輸出する。 |
ブランドイメージ向上 | 国内外に環境への取り組みをアピールする。社員採用においても、ポジティブな情報として活用する。 |
資金調達 | 投資家や金融機関にとっても、日本政府が温室効果ガスの排出量ゼロを目指している以上、カーボンニュートラルへの取り組みを考慮する可能性は考えられる。 |
また、建設業においては、1つの建物の建設着手から解体まで、以下のとおり様々なプロセスを経ます。
企画設計→資材調達→施工運用→改修→解体
それぞれの過程で温室効果ガス排出が発生するため、建物の一生において環境負荷を評価すべく、以下の指標が開発されています。
LCCO2 (ライフサイクルCO2) | 建物の生涯におけるCO2排出量を意味する。建設時より運用時の方が、CO2排出量が大きくなる傾向がある。 (一度建てた建築物は長期にわたって使用されるため、冷暖房や修繕などでCO2が排出され続けるため。) |
LCE (ライフサイクルエネルギー) | LCEについても、設時時より運用時の方が消費エネルギーが大きい。空調・照明設備に省エネ機器を導入するなどして対応する。 |
建設業でカーボンニュートラルを推進するためのポイント
ここでは、建設業でカーボンニュートラルを推進するためのポイントを、2つ解説します。
1.再生可能エネルギーの活用拡大
建設業界でも、温室効果ガス削減のため再生可能エネルギーの活用拡大が進んでいます。
また、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の建設も、近年普及し始めているのです。例えば、山形県のJESC-ZEB棟(日本地下水開発株式会社)では、地下水の熱エネルギーで冷暖房、給湯、融雪に必要な熱エネルギーを確保しています。
国外では、フランスのディズニーランドでは、駐車場をソーラーカーポートとして、36GWh/年の発電を目指しています。
さらに、既存の太陽光パネルより軽量で柔軟であるため、より屋根や壁面への設置が容易になった「フィルム型ペロブスカイト太陽電池」など、再生可能エネルギーに関する技術はますます進歩しているのです。
2.カーボンニュートラルな資機材の利用
カーボンニュートラルな資機材の利用も、建設業界では進んでいます。
グリーン調達による低炭素材の利用促進や、照明のLED化がその代表例です。また、Apple銀座では、耐火集成材を構造材に採用しています。これは、集成材の内側にモルタルや石膏、外側にスギ材を活用することで、環境負荷の軽減に加えて軽量のため工期短縮も図るものです。
建設業界におけるカーボンニュートラルに向けた取り組み事例
建設業界でも、カーボンニュートラルに向けた取り組み事例は数多く存在します。ここでは、その中でも以下の3つの取り組みを解説します。
1.三井不動産
三井不動産では、テナント会社と提携し、自社保有・転貸の不動産にて環境属性が付随した電力を提供しています。
固定価格買取制度期間を終えた、住宅太陽光発電由来の電力を供給しているのです。
また、日本橋や豊洲の建物にエネルギーセンターを設置し、建物はもちろん、周辺地域にも電気や熱を供給しています。
2.積水ハウス
積水ハウスは建築物の使用段階におけるCO2排出量の削減に向け、太陽光発電システムまたは燃料電池のいずれかを採用したZEH「グリーンファーストゼロ」住宅の普及を推進しています。
また、事業で消費する電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指し、オーナー宅の余剰電力を買い取る「積水ハウスオーナーでんき」も開始しました。
3.鹿島建設
鹿島建設では、環境データ評価システムのedesを開発しています。
これは、全現場の作業工程にて、CO2排出量を月単位で可視化するものです。
これにより、CO2削減に資するデータを得ようとしています。
また、現場deエコ®も開発しています。これは、化石エネルギーの消費や資材のムダを削減すべく、現場管理を行えるツールです。
まとめ
日本の建設業においても、今やカーボンニュートラルを無視できなくなってきました。
官民問わずカーボンニュートラルに向けた取り組みが行われているため、いち早く情報を取り入れ、自社の事業に活用しましょう。
また、カーボンニュートラルを推進するには、再生可能エネルギーの活用だけでなく、カーボンニュートラルな資機材の活用も有効です。
資機材を購入する際には、その観点にも注目してみてはいかがでしょうか。